「有機肥料」と「化学肥料」の違いを理解する為に、まずは「有機物」と「無機物」とはどういう物なのか?を理解する必要があります。
そして、有機肥料や化学肥料を使った際に、土の中でどの様な現象が起こるのか。
私の経験談や例え話などと一緒にお伝えして行きます。
有機肥料も化学肥料もそれぞれに特徴がありますので、しっかりポイントを理解して土づくりやプランター栽培に活かせるようにして行きたいですね。
「有機物」と「無機物」について
「有機物」植物が栄養として吸収できない
「無機物」植物が栄養として吸収できる
「有機肥料」に含まれる「有機物」は、そのままでは植物は栄養として吸収できません。
「有機物」は土壌細菌などによって分解される事によって「無機物」となります。
「無機物」となる事でやっと植物が吸収できる栄養素となります。
その「無機物」の状態まで加工してから販売されている肥料が「化学肥料」と呼ばれております。
といってもなかなか分かり辛いと思いますので、もう少し具体的に掘り下げていきたいと思います。
「有機物」とは・・・「炭素(C)を含む化合物」の総称。(例外あり)
【炭素(C)を含む化合物(=有機物)の例】
・炭水化物:(CH2O)n
・タンパク質:NH2CHRCOOH
・脂質(脂肪酸):CH3-(CH2)2-COOH
(※他にもたくさんの種類があるので一例として見て下さい)
元素記号が出てくると難しく感じてしまいますが、ここは大事なポイントので覚えておいて下さい。
「有機物」は「化合物」という事なので、いくつかの元素がくっついている物という事になります。
例えば、炭水化物、タンパク質、脂質なども、この時点ではまだ「炭素(C)を含む化合物」(=有機物)の状態です。
これらは、C、O、H、Nなどの元素が複雑にくっついて出来ていますので、これを「炭素(C)を含まない状態」になるまで分解する事でようやく「無機物」となります。
「有機物」をもっと分かり易く理解する為には、下記の様な見方がオススメです。
【有機物】とは
「有機物」=「植物 or 動物由来の物」=「自然由来の物」
(具体的な例)
落ち葉、わら、米ぬか、油かす、魚粉、肉骨粉、生ゴミ、排泄物など
これらはどれも、元々は植物や動物や魚だった自然由来の物です。
生ゴミも排泄物も「元々は植物や動物」です。こういった物が「有機物」となります。
こういった「有機物」が細菌や微生物の力を借りて、バラバラに分解されて「無機物」となる事で、やっと植物が吸収出来る栄養素となります。
ご飯とサプリメントの関係に似ている
これらを踏まえて「有機肥料」と「化学肥料」を人間の食事に置き換えて考えてみると「ご飯」と「サプリメント」の関係と非常に似ているなと思います。
人間も「ご飯」は食べてから栄養素に変わるまでに分解(消化)に時間が掛かりますが、「サプリメント」の場合は化学的に抽出された状態の栄養素が取れます。
私はサプリメントは特に利用していないのですが、ここ数年のサプリメント市場は右肩上がりですので、多くの人がその便利さに魅力を感じているのだと思います。
そしてサプリメントなどで必要な栄養が取れれば、健康を増進する事や体を成長させる事も理論上は可能です。
人間も食事が取れない場合や、緊急的に栄養を摂取しなければならない場合は「点滴」という形で、すぐに吸収できる状態の栄養を体内や血液に入れる事があります。
しかしもし「これからは食事は無しで、サプリメントと点滴だけで生活して下さいね」という状況になったと考えると非常に辛いですよね・・・。
私の父の話ですが、胃がんを患って食事が取れなくなり、腸に点滴で栄養を流し込んで過ごしていた時期がありましたが、食事が取れない時期はどんどんと衰弱していきました。
その後なんとか口から食事が取れる様になり、一気に元気を取り戻した事が思い出されます。
やはり元気に過ごすためには、美味しいご飯を食べる事が本当に大事なんだなと実感させられました。
食事も点滴も「栄養を取る」という「結果」は同じなのですが、口で食べ物を噛んで飲み込んで胃や腸で分解した栄養を吸収するという「過程」も大事なんじゃないかと思います。
このあたりは人間も、野菜も同じなのではないかなと思うのです。
ですが、化学肥料はサプリメントや点滴と同様に非常に便利な部分もあります。
必要な栄養素を必要な量だけ、すぐに効く形で素早く野菜に届ける事が出来ます。
なので、使い方・使うタイミングによっては効果的な事もあります。
ですが、化学肥料ばかりに頼っていると、有機物というエサを失った土壌の細菌は減って行きます。
【化学肥料に頼った際の弊害】
・土壌細菌の種類、数が減る
・土の中で有機質の分解活動が減る
・欠乏する栄養素が出てくる
・野菜の成長力や抵抗力が弱まる
・病気、害虫の被害が増える
そして、足りない部分や弱った部分をさらに農薬や化学肥料で補う。という悪循環に陥ります。
農家さんがおっしゃる「化学肥料で土が死ぬ」というのはこういった構造で進んでいきます。
土壌環境と腸内環境は似ている
こうして考えて行きますと、野菜の「土壌環境」は、人間の「腸内環境」とよく似ていると感じます。
近年「腸内フローラ」などの言葉も注目されており、人間の腸内で活動する細菌の数や種類などの「腸内環境」が、人間の健康や病気と密接に関わっているという情報を目にする機会が増えました。
人間の腸内でも細菌の力を借りて、栄養素を吸収しやすい形に消化・分解しています。
【人間の栄養分解の例】
・炭水化物 → ブドウ糖
・タンパク質 → アミノ酸
・脂肪 → 脂肪酸・グリセリン
など
ですので私は、土の中と人間の腸内は近しいというイメージをしています。
という事で、土壌を良くする為には、土壌細菌の数や種類に注目し「土壌内フローラ」とでも言うべき細菌の環境を良い状態に保つことが大事になります。
プランター栽培の場合でも、毎回新しい土に入れ替えていたり、1年だけ野菜が育てば良いんです。といった場合は、化学肥料をメインで使用しても大丈夫かもしれません。
しかし、プランターの土の再利用をしながら毎年野菜を育てて行く場合には、有機質の資材で土壌環境を育てて、土壌内フローラの細菌も育てながら栽培をした方が、結果的に元気で病気に強い野菜が育ちます。
もしかすると、人間も同じ様にサプリメントに頼った生活を続けていると、腸内フローラに悪影響が出てしまい、結果的には健康を害してしまう事になるかもしれませんね・・・。
有機肥料と化学肥料の特徴と効果(まとめ)
「有機肥料」も「化学肥料」も野菜に栄養を与える「肥料」としては同様に効果があります。
しかし、栄養として届くまでのプロセスに大きな違いがあり、土壌に与える影響としては全く違う影響があります。
肥料としての効果 | 土壌改良の効果 | |
有機肥料 | ゆっくり効く | 良い |
化学肥料 | すぐに効く | 悪い |
ただ、ベランダでプランター栽培を10年以上やっている体感としては、一般家庭のプランター栽培レベルでは化学肥料はあまり必要ないかなと思います。
プランターの土は、毎回なるべく再生作業をして有機質な土づくりをしておけば、目先の肥料効果を求めて化学肥料を使う必要はないです。
そういう土づくりが面倒という場合は、化学肥料で育てて行くというやり方も可能かと思います。
ただし、どちらかというと水耕栽培の様なイメージで、土に無機質の栄養だけ足して行く感じになりますので、土壌はカスカスになっていくのではないかと思います。(やった事が無いのでハッキリとはわかりませんが)
ちなみに、土壌細菌の状態が良いのか悪いのかを、一般家庭で正確に計測する事は難しいですが、土壌の状態(匂い・色・手触り等)を注意深く見ていく事で、ある程度は判断する事は出来ます。
微生物による分解が良い状態が「発酵」、悪い状態は「腐敗」と呼ばれます。
我が家の堆肥用のプランターは、発酵の匂いや森の土の匂いがする事が多いです。
また、発酵が進んだ良い土になっていくと、土の色は黒系の色に近くなっていきます。
地域や地層などによるかもしれませんが、私の中では森の中の土も黒いイメージです。
プランターの土の入れ替えに関しては、下記の記事にもまとめています。
堆肥用プランターの記事もありますのでどうぞ!